WCAN 2018/08「クライアントに採用してもらうため、企画作りに込めるモノ」に参加しました
8月4日にベースキャンプ名古屋にて行われたWCAN 2018/08「クライアントに採用してもらうため、企画作りに込めるモノ」に参加しました。講師はサービシンクの名村さん。声優の経歴もあり、表情も含めて発する一言一言に惹かれるものがある方でした。
また今回のセミナーもスライド140枚にも渡るほどのボリューム。私も全ての内容をメモできた訳ではないので、心に響いた部分を中心に振り返っていきます。
企画書との向き合い方
お話は「そもそもディレクターにとっての企画書とは」という問題提起からスタート。クライアントに対する企画書は目標と現実のギャップを埋める方法論、つまり「問題解決」の提示に値します。従っていきなり企画を発案するのはナンセンスで、課題の洗い出しまでの主なフローである「①問題の発見→②問題の提起→③分析と検討→④方向性の洗い出し」も本質とのこと。
名村さんの過去の案件では、このフローを経て「今回の問題を解決するのにWebは不適切だ」と判断したものもあったそうです。私も大学の時の卒業制作でゼミ教授に同じようなことを言われた経験があったので、その時のことを思い出したりもしました。
企画書として大事なもの
ここでは、キリンビールマーケティング部長佐藤章さん「商品開発の14か条」の紹介がありました。
- サプライズ(心地よい驚き)
- 好かれなければ商品は売れない
- 理解でなく了解
- 魅力的かどうかを競う
- プロデュースが開発者の仕事
- 確信犯の1人が全てを決めていく
- ブランドは掛け算
- 本質価値
- 神は細部に宿る。
- 大きい市場、伸びる市場を狙う。
- 大振りする
- 人のマネをしない、自分のマネもしない
- IQが高いのはダメ
- 会社の都合で商品はつくらない
特に「確信犯は一人」という項目には私も過去の経験から実感としてあるかなと思います。確かに複数人で持ち寄った提案を最終的に一つにまとめてできた企画というのは、突出する部分のないものになってしまいがちです。私はその原因の一つとして、「誰も完全に納得できてないから」というのがあるのではと感じています。
またここでは思考を円滑にするフレームワーク「マンダラート」のお話も。マンダラートとは、3×3のマス目の中心に議題を書き、その要素を8方向に広げて深く掘り下げていく考え方のことです。
なんでも野球の大谷選手は高校1年生の時にこのマンラダートで「どうしたら野球選手になれるか」と考え、それを実践したのだとか。
張り合うわけではありませんが、実は私もマンダラートを使ったことがあります。ただ書きやすさが自分にフィットしなかったので今はほぼノートに殴り書きです。(苦笑)
企画書の種類
企画書の種類は主に3つ。
- 事業計画書…主に収益の話
- マーケティング期計画書…競合とどう差別化していくか、その対策
- 営業計画書…該当の商品を売っていく戦略
これらはそれぞれの目的は違えど、構成において基本の5枚書きというものが存在します。それが以下の項目です。
- 整理・現状
- あるべき理想論
- 具体策
- スケジュール
- 予算
名村さんは企画書を作る際に、まずはこの5つの項目でプレゼン資料をセッティングするそうです。そしてこれを始点にとにかく詰めて行くとのこと。それはもう「なぜ」を何度も繰り返して根本を徹底的に暴き、先方に対して絶対にアラを指摘されないレベルにまで。また自分のマイナスを指摘された時の代案など、あらゆる展開を想定して固めていくことも重要だそうです。
これらの項目は一見合理的なテンプレートのようにも見えますが、ここで勘違いしてはいけないのが、「これらを埋めたら完成するのではない」ということです。名村さん曰く、ここから密に詳細を書き込んだ企画書を自分の中で咀嚼して、最終的に全てを20秒で語り切れるくらいシンプルに落とし込むことが必要なのだとか。奥が深いですね。
企画書の体裁
企画書でこだわるのは内容だけではありません。「人は見た目が9割」という言葉もあるように、視覚情報は印象の大半を占めています。それは企画書でも同じこと。いくら内容が素晴らしくても、読みやすさに長けていなければ先方は目を通してくれません。それは文章を構成するフォントや色・配置に始まり、インデントはきちんと揃っているか、ページごとにデザインの軸がブレていないかなど、体裁の全てを含んでいます。
ただ、これは装飾ではなくあくまで「読みやすさ」が第一優先で、まさしくデザイン。最近見た言葉で「デザインで目指すのは"付け足すものが何もない状態"ではなく"取り除くものが何もない状態"だ」とうものがありましたが、ここでも反映されているように感じました。大事なのは違和感を取り除くことで、「なんかかっこ悪い」を消すことなんですよね。
またデザインとは少し異なる部分の体裁として、言葉の意味の正確性もあげられていました。日頃から共通認識で用いる語彙を多くストックしていくことはもちろん、先方に伝わらないであろう専門用語を認識し、変換する力を鍛えていくことも重要なのだそうです。ディレクターではないにしても、私もいちブロガーとしてこれは意識しなければいけない部分だとひしひし感じます。
通す企画書とは?
それではここからは通す企画書の必須項目を具体的に見ていきます。
- 相手の要求にあっているか
- そこから大きく超えている要素は
- マイナスを補って余りあるプラス
- 他社の企画と同等である
- 他社に何か1つでも大きく超えているもの
- 超えているものは予算以外のもの(仮に100万円という枠があったとしたら、150万で提示したとしてもそれが欲しいと言わせるもの)
- 体裁を整えて情報を正しく伝える
- 他者との優位性を伝える
この項目からも、企画内容を練る際はあくまで「競争」に視点を置いていることが見て取れます。自社の提案がどれだけ優れているかという絶対的基準ではなく、他社が出してくるであろうカードを予想して先手を打つことが重要になってくるのですね。
通す力の鍛え方
では通す企画書を作成するために必要な力はどのように鍛えれば良いのでしょうか。名村さんはここでクリティカルシンキングについて触れられていました。
クリティカルシンキングとは「批判的思考」のこと。対になる言葉であるロジカルシンキングはよく耳にしますが、クリティカルシンキングは疑うことを繰り返して議題の起点がぶれないよう固めて行く思考法です。企画内容を考える際には、自他に思考の癖があることを前提に、且つ個人的な感情は一切排除して問い続けることで、ブレをなくしていくのだそうです。
まとめ
このセミナーを通じて企画書作成時に意識することやテクニックを学べたことはもちろんですが、何よりも名村さん自身の仕事に対するモチベーションの高さに感銘を受けました。多くある良い企画書の実例に目を通すこと。22歳から1ヶ月に10冊以上本を読み続けること。「効率的に学ぶのは絶対に無理。無駄は必要。」の言葉も、ご自身がここまで積み重ねてきた経験から導き出された回答なのだと思います。これだけ軸を持って思考を言語化し、アウトプットできるその土台には、やはり並大抵でない努力があるのだと痛感しました。そしてそのような人が発する言葉だからこそやはり説得力があり、私たち受講者だけでなく実際の案件で先方の信頼にも繋がっているのだと感じます。
そして最後に、名村さんも繰り返しおっしゃっていた「"知る"のではなく"実行する"こと」の重要性。努力値は関係なく結果としてどれだけ達成されたかが評価につながるという指針は、情を持つ日本人にとって敬遠されがちな基準だと思うのですが、何よりも真っ当であり、グローバルで通用する考え方なのも確かです。企画1つに対してどれだけプロの意地を見せ執着するか、その向き合い方で市場価値が問われる社会。一見厳しく聞こえますが、その渦中にいる「デキる人」の多くは、むしろそれを楽しんでいる印象があります。
最後に、懇親会で経営者の方から「デザイナーはディレクター視点を同時に身につけたほうがいいよ」とアドバイスをいただけたことも為になりました。私も自ら実行する機会を作ってでも経験を積んでいきたいですね。